iPaaSにできることとは?導入のメリットや将来性を解説!
iPaaSという言葉にあまり馴染みがないかもしれません。欧米では10年ほど前からあるサービスです。最近、日本でも話題になってきたiPaaSについて、導入のメリットや将来性について初学者の人にも分かりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。
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Contents
iPaaSとは
iPaaSとは「Integration Platform as a Service」の略で、オンプレミス環境(企業内の業務システムなど自社内でのみ運用されている環境)や、クラウド環境(AWSやgcpなどクラウド上にある環境)にある複数のシステムやアプリケーションを統合することで、それぞれに運用で発生していた運用工数を、フロー、管理などをひとまとめにして簡素化し、なおかつクラウド上で運用を可能にしたサービスです。
分かりやすくいえば、クラウドを用いてシステム連携、データ連携するためのサービスのことです。
簡単な例をあげますが、社内に在庫管理、配送管理、サポートセンター管理、販売管理、勤怠管理、経費管理などのさまざまな運用・管理業務が存在していたとして、各業務ごとにそれぞれのシステムやアプリケーションなどを用いて運用・管理していたとします。業務をまたいでデータ共有をおこないたいとき、手入力することが考えられます。手入力の工数、打ち間違いの発生などが考えられます。iPaaSの導入により、各業務のシステムやデータなどを一元管理できるようになり、自動化による工数の削減や人為的なミスの低減につながるというわけです。
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iPaaSが注目されている理由
2022年7月に発表された「ITR Market View:RPA/OCR/BPM市場2022」によると、2020年に21億円規模売上金額だったiPaaS市場が、2021年には28億円に、2022年には40億円、2023年には55億円、2026年には115億円規模になると予想しています。
こうした背景には、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進があります。経済産業省の発表したDXレポートによれば、2025年までにDX移行がおこなわれないことにより、年間最大12兆円の損失(いわゆる「2025年の崖」とよばれる問題)が生じる可能性が指摘されており、企業の競争力維持・強化のために、速やかなるDX推進が求められています。DX推進を阻害する要因として、旧来のシステムの老朽化、複雑化、ブラックボックス化などが指摘されています。
しかしながら、2021年、総務省により発表された「我が国におけるデジタル化の取組状況」では、約6割ほどの企業がDX化を「実施していない、今後も予定なし」と回答しています。
日本では、DX推進はまだ過渡期にあり、今後も多くの企業でDX推進をおこなっていかなければならない状況にあります。
iPaaSは、オンプレミス環境にある旧来のシステムを活用できるようになるため、DX推進に利用できるとして、注目されています。
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RPAとの違い
RPAとは、「Robotic Process Automation」の略で、直訳すればロボットによるプロセスの自動化を意味し、実際にはパソコンによる事務操作などを自動化するためのツールのことです。
RPAは、ホワイトカラーの事務系の業務であるデータの収集、専用書式への登録・記入、データ連携、フォルダ・ファイル操作・管理といった、人がおこなうには手間や時間がかかる定型業務をおこなうのに向いています。
日本では長年生産性の不足、労働力の不足、長時間労働という社会的課題を抱えており、定型業務の自動化により、こうした課題に効果があるとして期待されています。
「RPA効率化の威力 50社で年1700万時間浮く」によれば、RPAの導入により50社で1700万時間の時間削減に成功したという例もあります。
・iPaaSとの違いについて
いずれも業務をまたいで連携し、自動化するツールという点で共通しています。特徴にやや違いがあり、iPaaSは各サービス(SaaS)が公開するAPIを連携するのに向く傾向があるのに対し、RPAはユーザーがデスクトップにおいておこなう作業を自動化するのに向く傾向があります。
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FaaS、DaaS、IaaS、PaaS、SaaSとの違い
似たような言葉として、FaaS、DaaS、IaaS、PaaS、SaaSがあります。いずれも「aaS」が共通しており、英語で「as a Service」の略になっています。これらは、全てクラウドで提供されるサービスで、何を提供するかにより名称が異なっています。
下記それぞれの略称、違いについて解説し、主な利用者について表にまとめました。
・略称について
FaaS……Function as a Service
DaaS……Desktop as a Service
IaaS……Infrastructure as a Service
PaaS……Platform as a Service
SaaS……Software as a Service
・違いについて
FaaS……インターネット上で、サーバーやネットワークなどのインフラを必要とすることなく、ソフトウェア・アプリケーションなどを開発できる環境を提供するサービスです。例えば、AWS Lambda、Azure Functions、Google Cloud Functionsなどのサービスがあります。
DaaS……インターネット上で、仮想デスクトップを利用できる環境を提供するサービスです。例えば、Amazon WorkSpaces、Azure Virtual Desktop(AVD)などのサービスがあります。
IaaS……インターネット上で、サーバーやネットワークなどのインフラなどの環境を提供するサービスです。例えば、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure(Azure)、Google Cloud Platform(GCP)などがあります。
PaaS……インターネット上で、ソフトウェア・アプリケーションなどを開発できる環境を提供するサービスです。例えば、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure(Azure)、Google Cloud Platform(GCP)などがあります。
SaaS……インターネット上で、ソフトウェア・アプリケーションなどを利用できる環境を提供するサービスです。例えば、Gmail、slack、Chatworkなどがあります。
・主な利用者について
FaaS |
アプリケーション開発者 |
DaaS |
ユーザー(リモートワークなど) |
IaaS |
インフラエンジニア、アプリケーション開発者 |
PaaS |
アプリケーション開発者 |
SaaS |
ユーザー |
iPaaS |
企業 |
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iPaaSの機能とは
iPaaSの機能について簡単に解説します。
・API Gateway
クライアントとアプリケーションのバックエンドサービスのコレクションの間に位置し、クライアントからのリクエストに対していくつかの役割を果たします。リクエストの検証、認証と承認、レート制限のチェック、ポリシーの提供、監視、分析、課金システムへの接続などです。
・Enterprise Service Bus(ESB)/Extract、Transform、Load(ETL)/Enterprise application integration(EAI)
ESB、ETL、EAIなどは、古くからオンプレミス環境にある複数のシステム・アプリケーションを統合する際に利用されてきました。近年、ESB、ETL、EAIもクラウドに対応し、それぞれiPaaSと同義です。ESB型、ETL型、EAI型ということもあります。
・Low-code Tool
API連携には、テスト工数や開発、運用コストなどに課題を抱えているサービスが多く、クラウドネイティブで設計されたローコード型のiPaaSはGUI(Graphical User Interface)による視覚的な操作により、コーディングなどのプログラミング開発をほとんど必要とせずにミニマムな開発がおこなえます。
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iPaaSのメリットとは
iPaaSのメリットを見ていきます。
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DX推進に役立てることができる
iPaaSの適切な導入により、旧来のシステムの複雑化、ブラックボックス化といった課題に対して効果が期待できます。
iPaaSにより連携されることで、複雑だったシステムの運用保守が簡素化され、属人化や有識者の退職などでブラックボックス化していたシステムの見える化が可能です。
また、拡張性においても優れ、市場の変化に対応してSaaSの使用・変更を適宜検討できるため、ビジネス・モデルの柔軟かつ迅速な対応が可能になります。
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既存IT資産の活用ができる
iPaaSにより連携されることで、オンプレミスなどで使用してきたレガシーなシステムと、運用によりこれまで蓄積された膨大なデータを、新たにデジタルとして活用することできます。
変化の激しい市場に対応するには、柔軟かつ迅速な対応が求められます。データを活用しきれず、デジタル競争に敗れるといった事態を防止できます。
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TCO(Total Cost of Ownership)の削減に繋がる
拡張性、保守性の低いシステムの運用コスト、各システムの開発コスト、ミドルウェア、ライセンス料や、各システムを運用する人員の学習コストなど、旧来のシステムを維持するためにかかる膨大な費用を削減することできます。
また、これまで運用保守に費やされていたIT人材の労働時間を、より創造性の高い仕事に割り充てることができるため、企業の生産性の向上も見込めます。
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iPaaSを使う上での注意点
iPaaSを導入するうえでの注意点を解説します。
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導入コストが高い
導入環境にもよりますが、日本の企業が日本のiPaaS製品を導入する場合、主にシステムの解析や開発などにコストが発生することが考えられます。開発に数か月かかるケースですと、数千万単位のコストが発生する場合もあるでしょう。
また、ランニングコストとして、月額サブスクリプション料金、従量課金制料金が発生する場合があります。
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運用が困難な場合がある
旧来のシステムを使い続けることに比べて運用保守は削減されますが、新たな仕組みを導入することになるので、当然ではありますが、担当者は運用に慣れる必要があります。iPaaS業者によっては、運用面のサポートをおこなっているところもありますが、なにより十分な体制構築をする必要があるでしょう。
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システムやサービスがAPIを提供していない
iPaaSは、APIが存在しなかったり、OpenAPI として提供されていないSaaSなどと連携ができない場合があります。その場合は、別の共通プラットフォームの使用を検討する必要があるでしょう。
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iPaaS製品を選ぶ際のポイント
iPaaS製品を選ぶ際のポイントを解説します。
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サポート体制が十分か
運用・操作面のサポートが受けられるかは、製品選定のひとつの基準になるかと思います。その意味では日本製品か、一部海外製品の中には日本語に対応しているところもあるので、その中から選ぶのもひとつの選択肢です。
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目的に沿ったアプリケーションと連携できるか
当然の話ですが、意味もなくシステム連携をおこなっても仕方がないので、経営戦略やDX推進システムガイドラインなどを踏まえ、企業や業務ごとの特性を考慮し、場合によっては不要なシステムの廃棄を検討し、企業にとって最適なiPaaS製品の導入を検討するとよいでしょう。
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対応システムやサービスは豊富か
基本的なところですが、統合できるアプリケーションの数、目的のアプリケーション(Twitter、slackなど)との統合、業務プロセスとしてのレシピの数、導入までの期間、コスト、セキュリティ、日本語対応など、サービス内容が自社に合った製品を探すとよいでしょう。
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iPaaSの種類について
iPaaSの種類について解説します。
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レシピ型
レシピは、統合したシステム・アプリケーション間のワークフローのことで、通常は業務ごとのアクションに従って作成します。レシピ型では、こうしたフローが予め用意されているので、企業に合ったレシピを選ぶだけでITの専門知識がなくても使用できます。
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EAI型
EAIとは、「Enterprise Application Integration」の略で、企業のアプリケーション統合という意味のとおり、オンプレミスからクラウドまで幅広く連携が可能です。バッチ連携とリアルタイム連携のいずれにも対応しています。
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ETL・ELT型
ETLとはExtrac、Transform、Loadのそれぞれの頭文字をとったもので、ELTはExtract、Load、Transformのそれぞれの頭文字をとったものです。これらはそれぞれの工程を意味しており、ETLとELTでは2番目と3番目の工程が逆であることを意味します。
いずれも、クラウドやオンプレミスにあるシステムデータを、バッチ処理によりExtrac(抽出)し、データレイクやデータウエアハウス(DWH)に集約します。
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ESB型
ESBとは「Enterprise Service Bus」の略で、システム連携の基盤となるミドルウェアを意味します。SOA(サービス指向アーキテクチャ)の実装を実現します。ちなみに、サービス指向アーキテクチャとは、企業の複数あるサービスを、コンポーネント化したいくつかのシステムを組み合わせて一つ一つのサービスを作成していく手法です。
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APIでの連携について
APIとは「Application Programming Interface」の略で、アプリケーション同士をつなぐための仕組みで、サービス提供者が外部の事業者に公開しているAPIをオープンAPIといいます。
iPaaSはSaaSが公開するAPIと連携し、自動化をおこないます。
APIを利用するメリットは、SaaSの仕様の変更の影響を受けにくいこと、またユーザーの利用環境の影響も受けにくいことです。
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iPaaSのサービス例
iPaaSのサービスをご参考までに紹介します。
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IFTTT(イフト)
アメリカのIFTTT社により2010年12月よりサービスが提供されました。レシピ型のiPaaSで、700以上のアプリケーション、Webサービスと連携が可能です。レシピの作成は、trigger、actionを選択後、Applet(アプレット)と呼ばれるレシピ名を付けるだけの操作で完了です。ボット、IoT、音声アシスタントなどを、お馴染みの関連ブランドと連携できます。
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AWS Glue
AWS Glueは、Amazon社が提供するサーバーレスなデータ統合サービスです。クラウド環境を用いるため、旧来のETLよりコストを抑えることができます。
引用:https://aws.amazon.com/jp/glue/
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Workato(ワーカート)
アメリカのWorkato社は2013年に創業し、2021年に日本法人を立ち上げました。ローコード型のiPaaSで、オンプレミス環境、クラウド環境問わず、1000以上のアプリケーションと接続可能です。
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iPaaSの将来性
iPaaSの将来性について、世界の市場の動きからみていきます。
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欧米企業の活用状況
1990年代後半から2000年代頃にかけては、企業はESBに期待を寄せていました。iPaaSが登場したのは、IFTTT社が2010年10月、Zapier社が2011年、Workato社が2013年と、日本よりも10年ほど前で、ESBよりも安価で、拡張性が高く、次世代型統合プラットフォームとして期待を寄せています。
「Market Share: All Software Markets, Worldwide, 2019」によれば、2018年には、世界の市場規模は16億9,000万ドルほどまでに到達しています。同じく、2018年にWorkato社が日本でのiPaaS事業の本格展開を開始しました。10年ほど遅れてもたらされたiPaaSは、日本ではまだあまり馴染みはなく、「iPaaSが注目されている理由」の項目でも解説したとおり、日本の市場はこれから成長していくことが予想されています。
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iPaaSの市場規模と未来予測
「Gartner Hype Cycle for Cloud Platform Services 2022 Positions Two Technologies to Reach the Plateau of Productivity in Less Than Two Years」(2022年8月)によれば、iPaasのエンドユーザーの支出は、2021年から18.5% 増加し、56億ドルになると予想しています。
また、「ntegration Platform as a Service Market with COVID-19 Impact Analysis, by Service Type (API Management, B2B Integration, Data Integration), Deployment Model (Public and Private Cloud), Organization Size, Vertical and Region – Global Forecast to 2026」によれば、2026年には139億米ドルの規模に成長すると予測されています。
これは「iPaaSが注目されている理由」の項目で解説した日本の市場規模の予測と大きく際のない成長率で、世界規模でみても、日本規模で見ても、iPaaSは急成長を遂げていくことが予想されています。
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まとめ
iPaaSはオンプレミス、クラウドアプリケーション、レガシーアプリケーションを統合し、活用するプラットフォームです。
DX推進に役立ち、2025年の崖に有効な対策手段としても注目されており、市場は急成長していくことが予想されています。
この記事を参考にiPaaSの導入を検討してみてください。